起業時の失敗を最高の学びに変える
プロフィール
廣重 勝彦(ひろしげ かつひこ)さん
むさし証券株式会社 チーフストラテジスト
1982年 北海道大学法学部卒業
1958年山口県柳井市出身、柳井高校卒。1982年北海道大学法学部卒業後、83年に山種証券(現SMBC日興証券)入社。以降、米カーギル・ファイナンシャル・プロダクツ運用部長、みずほ証券エクイティ部部長、トレーダーズ・アンド・カンパニー取締役などを歴任。『デイトレード入門』『初めての海外個人投資』(いずれも日経文庫)等の著書多数。一般社団法人日本社債調査センター代表理事。公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。北海道大学資金運用管理委員会委員。法政大学(社会人)大学院経済学修士。
個人投資家を応援する会社を創業、入門書の執筆も
私の仕事は金融市場分析を専門とする証券エコノミストです。大学を卒業後、証券会社や米系商社などで働き、1999年には仲間5人とインターネットで証券情報を発信する会社を立ち上げました。というのも実際に証券業界で働いてみて感じたことは、会社の資産を運用する機関投資家に比べて個人投資家が正しい情報を得る機会が少ないという当時の情報格差です。
この状況を改善し個人投資家の取引を活性化することができれば、日本の証券市場が健全に発展し、ひいては停滞していた日本経済の復活に貢献することができるかもしれない。そう考えてマンションの一室で仲間と起業し、苦労もありましたが設立4年目から徐々に成果が出始め、2007年には上場企業となりました。
プロのノウハウを一般読者に提供する『デイトレード入門』を書いたのもこの頃です。知人には「ノウハウを明かし過ぎだ」と怒られたこともありますが、個人投資家の方々には大変喜ばれたようで、発行部数は累計4万部を超えています。
上場後はメンバーがそれぞれの道に進み、私も再び証券会社に移って、エマージング市場(新興国市場)のビジネスに携わり、スリランカなどにも長期駐在しました。私たちの仕事は良い投資先を探してお客様にお金を出してもらったら終わりではなく、投資先の経営管理も守備範囲であり、私自身が投資先である現地の金融機関やリゾートホテルの経営に参画したこともあります。そのような経験を活かして現在は、北海道大学でも資金運用管理委員会のメンバーとして大学基金の効率的な運用を目指しています。
今やりたいことは何ですか?実践的な起業体験
フェローゼミのテーマは「スタートアップ(起業)」です。学生たちに“本気で”会社を作るべく取り組んでもらいます。なかには「今のところ、自分は起業を考えていない」という学生もいるでしょうが、企業や教育研究機関に就職した場合でも、企業内でのスタートアップというべき新プロジェクトや新規事業の立ち上げに関わる可能性は高く、もはや避けては通れないものになっています。
ましてやテクノロジーの進化が加速して社会構造が激変する中で自分がどう生き残っていくかを考えると、スタートアップの能力は学生のうちにぜひとも蓄えてほしい力です。
先ほど“本気で”と説明したのは、これが単なる教科書的なシミュレーションであれば、取り組む学生側に気持ちのゆるみが出てしまうから。私もアドバイスをする際は、スタートアップ経営者に対峙するときと同じ姿勢で、実際の現場と同じことを伝えています。
スタートアップに取り組む際に一番大事なことは、「やるべきこと」ではなく「やりたいこと」をやること。自分が本当にやりたいことだからこそ、困難があっても情熱を注いでとことんやりぬくことができます。一方、他人が設定した「やるべきこと」は、要領良くこなすことが求められているだけ。限られた人生の時間をどう使うかは人それぞれですが、情熱をもって仕事に取り組む日々は間違いなく人生の充実期になります。
ちなみに、新時代を築いた米国のスタートアップ企業「FAGA(フェイスブック、アップル、グーグル、アマゾン)」の創業者たちのマインドセットはシンプル。「やるべきこと」ではなく「やりたいこと」を、人生をかけて続けたことです。
そしてもう一つ大事な問いは、「やりたいことをやるのはいつか?」です。中学時代は良い高校に入るための勉強をし、高校は大学受験のために頑張って、大学では就職のために…というのが典型的な生き方ではありますが、これではひたすら先々の準備をしているだけ。さらに会社に入ってからも昇進のために努力し、最終的に退職後の準備をする。いざ退職したら、自分の「やりたいことをやろう!」と期待しますが、果たしてそれで間に合いますか?
新渡戸カレッジのスタートアップゼミでは、皆さんの一生がそんな“生涯をかけた準備期間”で終わらないよう、やりたいことをやりたいときに実行できる力が身につく体験となるように私も精一杯頑張っています。
フェローの流儀: 小さい失敗が最高の学び
昔話で恐縮ですが、私が学生時代に入ったライフル射撃部は、学生が射撃場を作るところから始まりました。学生特権と称して超法規的に資材や道具を集めてきたりして毎日が土木工事(笑)。皆、素人ながら何とか完成にこぎつけました。それでも射撃場ができると練習が質量ともに格段に向上し、北大が全道学生選手権で優勝したり、インカレや国体に出場する選手も輩出。私ものちに北海道学生射撃連盟の幹事長となり学生選手権等を運営しました。大学1年時に始めた土木工事(射場作り)が、大学4年時にはいつの間にか大きく実を結んでいたというわけです。
部活動でも研究でもビジネスでも、スタートアップにはつねに失敗が伴います。しかし、その失敗こそが学びのチャンス。失敗の中から課題を見つけ、それを改善して再度トライする過程で真の力がついていくからです。そうなると、他人の教えを守るだけでは対処できない新たな課題や大きな課題を自分自身で解決できるようになり、やがては社会の課題解決にも貢献できる可能性が膨らみます。
失敗は最高の学びのチャンスです。行動してトライして失敗して学んで成長していくプロセスを、フェローゼミのメンバー全員と一緒に体験しています。