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新渡戸カレッジ履修生・修了生、フェロー・メンターからのメッセージです。

Fair,Care,Shareの精神で世界と向き合う

長岡 宗男
投稿日: 2017-12-07

プロフィール

長岡 宗男(ながおか むねお)さん

元米国三井化学株式会社 副社長
札幌国際プラザ外国語ボランティアネットワーク役員
1975年 北海道大学 大学院 農学研究科 修士課程修了

北海道札幌市生まれ。北海道大学 大学院 農学研究科修士課程林産学修了後、三井東圧化学株式会社に入社。アメリカでの2年間の研究留学を経て、ロンドン、オランダに7年間駐在。企業合併後、ニューヨークにある米国三井化学株式会社に赴任(副社長)。帰国し、2005年接着剤メーカー株式会社サンベーク社長に就任。会社経営と新規接着剤の開発を促進。その後、化成品工業協会で中小企業対象の教育プログラムなどを手がける。札幌にUターン後は札幌国際プラザ外国語ボランティアネットワーク役員に。北大キャンパスウオークツアーを立ち上げる。

木材化学研究者が海外現地法人設立

大学時代の専門は木材化学でした。修士2年のとき、1年間のアメリカ留学がその後の私の人生を決定づける体験となりました。当時、日本とは比べものにならない最先端の研究環境に身を置いたことが、帰国後も「いつかまた必ず留学したい!」という強い思いにつながりました。留学先の寮で知り合った日本からの社会人留学生とウマが合い、彼から「君もうちの会社で働かないか?3年まじめに働くと海外留学のチャンスがあるよ!」と声をかけてもらいました。

大学院修了後は彼の紹介を頼りに三井東圧化学に就職し、木材の接着剤開発に関わるようになりました。そして入社3年目に社内の海外留学試験を受けて再びアメリカへ行きました。留学先である農務省林産研究所では、客員研究員の立場で現地のシックハウス対策に関わり、住宅資材について研究しました。
私の会社は、海外経験のある社員を大事に、また頼りにします。1989年から海外駐在時代が始まりました。ロンドンでは、現地法人の立ち上げと当時日本がリードしていた電子資材の市場拡大に力を注ぎました。次のオランダではロンドンでのプロジェクトを更に推進させるために新たに設立された合弁会社の一員として赴任しました。電子資材の市場開拓に注力しながら、現地生産を実現するための工場立地調査と採算性の検討を任されました。米国では、現地法人の三井化学株式会社でプラスチック接着剤の事業統括、米人従業員の人事管理や総務も任されました。ニューヨークに赴任して間もなく起きた9.11大惨事では、日本との連絡や社員の安全確認でバタバタしました。この時学んだ危機管理対応が東京で経験した東日本大震災の際に役立ちました。

会社から次々と与えられた仕事は、どれも「大学の研究室でフラスコを振っていた自分がそんなことまで任されるなんて!」と驚くことばかり。でもそれを1つずつ実現していくことで、自分のキャリアが充実していきました。我ながら「よくもまあ、いろいろなことをやってきたものだ」と思います。しかし、これらの得難い経験が今の自分を作っていると思うと、それぞれの局面で自分なりにベストを尽くしてきてよかったと実感しています。

伝えたい言葉は3つのエアー: 「Fair」「Care」「Share」

駐在時代は、非常にタフなビジネス交渉の連続でした。当時バブル景気で浮かれる日本企業を“カモ”ととらえる現地企業もあり、こちらがクレームをつけて初めて先方が態度を軟化させるという場面も多々ありました。

オランダ駐在時、フランスの企業との価格交渉で、こんな思い出があります。最初に提示した金額ではつれなく断られてしまいましたが、次の交渉で「なぜこの価格になるのか、将来的には御社にとっても決して損な話ではない」ということを丁寧に話したところ、成約になりました。その晩の会食で、先方が教えてくれた言葉が「3つのエアー」です。「どんなビジネスでも『Fair』『Care』『Share』の精神が大事であり、今日の君の交渉はそれにのっとっていた、だからこちらもOKを出したんだよ」と、明かしてくれました。

それ以来、この「3つのエアー」は私の座右の銘になりました。何事にも公正な視野を持ち、相手のことを慮りながら情報や気持ちを共有していけば、初めは露骨だった敵対意識も薄れ、最後は今まで以上にいい関係を築いていける。そういうことを何度も経験してきました。

その対極が「3つの『だけ』主義」です。今だけ、カネだけ、自分だけ。これでは国際社会でとても良い関係を築いていけるはずがありません。日常生活でもそうだと思います。目先の利益だけを考えると「3だけ主義」に陥りがちですが、「3つのエアー」は時代や国を超えて普遍的なものです。我々が空気を意識せずに吸っているように、「Fair」「Care」「Share」の精神は、意識しないで体現できます。それが、世界と向き合うグローバル人材に必要な資質だと思います。「3つのエアー」を教えてくれた方とは、今もクリスマスカードのやりとりが続いています。

フェローの流儀: 自分の可能性に挑戦しませんか?

カレッジ生の皆さんには、1年間くらいの長期留学をおすすめしたい。私が初めて留学したとき、「日本ではこう」「日本では…」と連発していたようです。周囲から「それはもうやめろ」「ここでどうするかを考えよう」と指摘されました。単身留学ならではの緊張感が問題解決の力を伸ばしてくれます。肌や国籍の異なる仲間と一緒に学んでいくなかで、多様な価値観を持つことができます。

私が力を注ぐボランティア活動は、これまで各国でお世話になった方々への私なりの恩返しのようなもの。新渡戸カレッジの学生たちに直接聞いてみたところ、ボランティア経験があるカレッジ生は少ないようですが、私のフェローゼミ「札幌市におけるインバウンド客向け観光ボランティア活動の現状と展望」を通じてボランティアにも関心を持ってほしいと考えています。そして、新しい世界を知ることで自分の可能性を切り開いていってください。