自分を外から見つめ、自分の気持ちに正直に
プロフィール
柴田 哲史(しばた てつし)さん
一般財団法人 北海道道路管理技術センター 調査役(企画部付)
1987年 北海道大学 大学院 工学研究科情報工学専攻 修士課程修了
北海道本別町生まれ。1987年北海道開発庁に入庁。1998年から3年間、在ヘルシンキ日本大使館一等書記官として勤務。帰国後、国土交通省 北海道開発局 札幌開発建設部 札幌道路事務所長、国立研究開発法人土木研究所 寒地土木研究所 研究調整監付総括研究監を経て2020年4月から現職。
育ててもらった北海道の田舎に恩返しを
土木の道に進もうと思ったきっかけは、大学入試のときに大きいダムを作った夢を見たことです。夢の中で自分は完成したダムをヘリから視察し、皆がすごく喜んでくれている。どうしてそういう夢を見たのかは、もともと自分の中に地域に貢献するような仕事に就きたいという願望があったのかもしれません。
小さい頃から親の仕事の都合で道内の田舎を転々とし、行った先々のまちで皆さんに面倒を見ていただきました。今から50年前当時、札幌はその頃から別格でしたが、北海道の田舎はまだまだ道路が砂利道で、収穫物を運ぶ農家さんたちがご苦労されている様子を見てきました。自分が大きくなったら、育てていただいた皆さんの恩返しになるようなことをしたい。その気持ちが、ダムの夢になって表れたのかもしれません。工学部を卒業後、大学院も工学科に進み、北海道開発庁(後の国土交通省)に入庁後も一貫して土木事業に関わらせてもらいました。
土木事業の実現は合意形成の積み重ね
土木事業の場合、自治体や地域住民の方々、その事業を設計するコンサルや実際に工事を担う施行業者の方々など、実に大人数の関係者が参加します。その中で国家公務員である私の仕事は、プロジェクトを進めるための合意形成を得ることでした。
地域としては新しく橋や道路ができることを歓迎していても、地元説明会になると環境や自然保護あるいは個人の立場からさまざまなご意見をお持ちの方がいらっしゃいます。全ての関係者に対して常にメリットとデメリットを明確にして、なんとかデメリットを小さくする方法を考える。ときには専門家をお呼びして詳しく説明していただくこともありました。そうした一つ一つの積み重ねで案件ごとに合意形成を行い、事業を前に進めていくということを全道各地で繰り返してきました。
フィンランドの首都ヘルシンキでの大使館時代は、日本の各省庁からの「〜について調べてほしい」「〜の法律や制度はそちらではどうなっているのか」という問い合わせに対して調査のうえ、求められている資料を用意する業務に就いていました。日本という国を外から見ることができた貴重な経験だったと思います。
ただ、私の思うグローバル人材とは語学力や海外経験の有無で考えるのではなく、違う価値観を理解でき、さらに自分の持っている価値観を自分の言葉で説明できる人。これが出来れば、バックグラウンドが違う人同士でも対話を続けることができます。
そう出来るようになるには、まず自分を外から見つめ直してみる。自分が一番大切にしていることは何か、だからこういう考え方をするのかと自分自身を分析する力が必要です。
フェローの流儀:踏ん切りをつけてやっちゃおう!
新渡戸カレッジの学生さんは皆さん熱心ですし、力もあります。あと必要なものが何かと問われれば、前に進む意志なのではないかと感じています。「失敗したらどうしよう…」と迷う気持ちもわかりますが、ここで考えてみてください。仮に失敗したとしても、何か困ることってあるでしょうか。
多少気まずい思いをしたとしても、成功体験と同じくらいの糧が自分のものになる。そう考えると、やはり答えは「やる」の一択ではないでしょうか。
かく言う私自身も「やっちゃおう!」と走り出すタイプであり、ありがたいことにこれまでお世話になった職場の先輩は皆さん、決して「柴田、それはやめておけ」とはおっしゃらなかった。自由に動き回らせていただいたことに心から感謝しています。このご恩を、今度は私から若い皆さんに送ることができたら、と思っています。
皆さんがもしどうしても自分で踏ん切りがつかないときは、迷わずフェローのところに相談に来てください。皆さんの背中を押すのが我々フェローの役目。「やりたいから迷っている」であろう皆さんの初心を応援します。