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新渡戸カレッジ履修生・修了生、フェロー・メンターからのメッセージです。

受け入れて、適応する しなやかなリーダー像という選択肢も

佐々木 亮子
投稿日: 2022-01-17

プロフィール

佐々木 亮子(ささき りょうこ)さん

株式会社アークス 社外取締役
1972年 北海道大学法学部卒業

1946年生まれ。北海道大学法学部卒。1981年株式会社調査開発センター入社、1992年同社常務取締役。1995年有限会社アールズセミナー設立(教育コンサルタント)、代表取締役に就任。2002年北海道副知事就任、2003年同退任、有限会社アールズセミナーの事業再開(現在は精算)。公益財団法人北海道青少年育成協会会長や北海道公安委員会委員長、認定NPO法人カルチャーナイト北海道副理事長など公職多数。現在は株式会社アークス社外取締役。北海道大学校友会エルム副会長。

事務職から教育コンサルタントに転身

私が北大の法学部に進んだ理由は弁護士に憧れて。卒業後もアルバイトをしながら司法試験に挑戦し続けましたが、とうとう手が届かず、経営コンサルタント会社の事務員として就職することになりました。
生活のこともあり、正直に打ち明けると“流されて”入った会社でしたが、実はここでチャンスをいただきます。「事務だけでなく社員研修の講師もやってみないか」と声をかけていただき、軽い気持ちで二つ返事をして、先輩の鞄持ちをしながら研修ノウハウを身につけていきました。

講師になったとはいえ、当初は駆け出し。ある会社の女性社員研修に行ったときのことです。皆さんに自己紹介をお願いしたら、お一人だけ「お話することは何もありません」と頑なな態度の方がいらっしゃいました。もしかしたら、研修を受けること自体に何か思うところがあったのかもしれませんね。その場はあえてそれ以上深追いせずに研修を進めていきました。内心はずっと彼女のことを気にかけながら。そうしたら最終日に彼女の方から「すみませんでした」と声をかけてくれたことは、今も忘れられない思い出です。

彼女がああいう態度をとったということは講師としての私の未熟さの現れですが、やはりこちらも生身の人間ですから心が揺れる。こういう毎回の研修で「人とは」「教育研修とは」ということを15年間学ばせてもらい、1995年に教育コンサルタントとして起業しました。

副知事の大役も「断れない性分」で自分の成長に

北海道副知事のご依頼が来たときは、晴天の霹靂以上の驚きでした。民間初の女性副知事という大役へのプレッシャーと、「私がこれをお引き受けしたら会社は一時休業状態になる。そうしたら社員たちは…」といろいろなことが頭に浮かび、3日間悩み続けましたが、実を言うと昔から頼まれたら断れない性分で。起業経験があることも心の支えになり、お引き受けすることにいたしました。
私のような特別な才があるわけでもない人間がこうした道のりを歩んでこれたことはひとえに、人と運に恵まれた幸せを噛みしめるばかりですが、一つ皆さんに言えるとしたら、“まず受け入れて、その環境に自分を適応させていく”、そういう成長の仕方もあるということ。一般に組織のリーダーというと、明確なビジョンをぐいぐいと突き進んでいくような人物像を思い描きがちですが、しなやかに流されながら自分の中のリーダーシップを育んでいく生き方も存在する。そのことを知っていただけたら、と思います。

新渡戸カレッジでは学部コースで対話プログラムを担当しています。学生の皆さん、とても優秀でこのまま伸びていってほしいと思う方ばかり。でも人生は長く、社会に出れば、ときには荒波も襲ってきます。その前に学生時代にできることは、自分自身と対話すること。人の意見を聞くというのももちろん大切なことですが、自分の人生の答えは自分の中にある。考えて、考えて、考え抜く。仕事も生活も恋愛も自分で考え抜いて、たくさん本を読んで、納得のいく生き方を選んでいく。これに尽きると思います。

今は女性の社会進出も進んでいます。私が女性対象の研修でよく申し上げているのは「正しいか、正しくないか」という基準の他にもう一つ、「勝つか、負けるか」という物差しを持ってほしいということです。中間管理職を任される女性たちは概して真面目で正義感が強い方が多く、そんな彼女たちが主張する“全く反論の余地がない正論”がややもすると、ご自身や周囲を縛りつけてしまうことがあるかもしれません。
組織や会社を率いる以上は、ときに「負けた」と思っても、それを相手への貸しにして最後にはこちらが勝つという選択肢も出てきます。長いキャリアを生き抜くためにも、“正しさプラスアルファ”の幅を意識してほしいとお伝えしています。

フェローの流儀:只(ただ)一灯を頼め

リーダーには自分を鼓舞する言葉が必ず必要です。私も心に刻んでいる名言がたくさんありますが、ここで皆さんにご紹介するのは幕末の儒学者、佐藤一斎の言葉です。

一燈を提げて暗夜を行く。暗夜を憂うること勿(なか)れ。只(ただ)一燈を頼め

暗い夜道をたった一つの提灯だけで歩いていけば、転ぶかもしれない。穴に落ちるかもしれません。そんな時に頼みとするのは自分の手の先にある提灯だけ。「一燈」とは自分のこと。自分を信じて進んでいく。この言葉が私同様に、次代のリーダーとなる皆さんの心の灯になれば、と願っています。