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Messages from Nitobe College Students, Alumni, Fellows, and Mentors.

東京同窓会会長からのメッセージ

杉江 和男
Post Date: Apr 29, 2016

杉江 和男(すぎえ かずお)さん

北海道大学東京同窓会会長、1970年工学研究科修了(応用化学専攻、修士)
DIC株式会社(元大日本インキ化学工業)相談役
サッポロホールディングス社外監査役
新渡戸カレッジ運営委員・フェロー

平成28年3月22日に開催された新渡戸スクール基礎プログラム修了式において、北海道大学東京同窓会会長の杉江 和男 様からご祝辞をいただきました。ここに全文を掲載させていただきます。

「グローバル社会で生き抜く力」の養成を目指した新渡戸スクールを、第一期生として修了された皆様に、まず、お慶びを申し上げます。

皆様はこれから就職される、或いは研究活動を続けるにしても、いずれ、企業或いは公的機関において仕事をされることになります。どのような職業・職種に就かれるかは様々でしょうが、共通していることは、働くこととは社会に貢献すること、その代償として報酬を得る、この意味を忘れないようにお願いしたいと思います。

ここで私が申し上げる社会とは、ご自分の家庭、仕事の職場、活動するサークル、居住する地域、そして日本と世界など、人が集まる全ての場を対象としています。

また、報酬とは、給料や金銭的謝礼だけではなく、遣り甲斐、生き甲斐、幸せそして満足感などを含みます。

さて、札幌農学校2代目教頭のホイラー先生が、「日本人は学ぶ意欲と能力で欧米人に引けを取らないが、社会に出ると大きな差が出る。日本の学問は記憶中心であり、自ら創造する力が養われていない。理論を理解し応用する実践能力を養う教育が必要である」と言われました。皆様は、高等教育推進機構に掲示されているホイラー先生の言葉をご存知ですか? 勉強や生活では、140年前に先生が言われた、学びを良く理解することが応用力の基礎になることを意識していますか?

学業成績は悪い人より良い人のほうが評価されます。それは努力した結果だからです。しかし、知識が豊富であっても、これからの時代に必要な発想に応用し実行しなければ新たな価値は生みません。

経済界のアンケートにおいて、社会が求める学生の資質を尋ねると、①熱意、②行動力、③コミュニケーション力がトップスリーで15年以上変わっていません。大学院生には課題解決力や専門能力を上位で期待するところですが、残念ながら、現実はやる気や協調性など人としての当たり前の資質が専門力以上に求められています。別の言い方をすれば、当たり前のことができない学生が多い、ということです。

これは日本の教育の問題というよりは日本社会が抱える大きな改革テーマであり、村社会からグローバル化、ダイバシティ、女性の活躍推進などで開かれた社会への変革が叫ばれているゆえんです。

新渡戸スクールは、人と人が共に働き共に生きていく社会において、今まで学んだ高度な専門知識を、どのようにすれば社会に還元することができるか、その力を育成する北大の新たなチャレンジです。

留学生を含めて各部局院生で構成するスクールはミニ世界であり、自分で課題を発見し他人の意見に耳を傾けて議論し、より良い解決策を見出す、すなわち受身ではなく能動的な教育を実践してきました。修了生である皆様は、日本社会が求める自立し創造的で協働できる大事な資質を身に付けて、社会に第一歩を踏む出せることを大いに自負し自信を持ってください。また、自分で考え行動することが習慣になっている海外の人達と一緒に学ぶ機会を得ましたので、これからも仲間として関係を継続してください。

さて冒頭で、仕事で社会に貢献する、と申し上げましたが、「社会の変化」と「仕事の価値」をいつも念頭に置いて頂きたいと思います。

Charles Darwinが、“変化する種のみが生き残る”と言ったことは誰でも知っているでしょう。経営の神様のPeter Druckerは、“私たちの顧客の本当の価値は何か”と問いかけました。

私が卒業した45年前、「鉄は日本の国家なり」と言われ、まさしく日本の産業の中心でした。しかし現在、当時の製鉄会社の社名は殆ど残っていません。鉄は構造材料として線路、道路、建築物など広い用途に世界中で使われていますが、日本の鉄鋼産業は国内需要が減少し国際価格競争力に劣るため、グローバルな業界再編成の途上にあるためです。

同じ頃、化学会社で博士を採用するのは繊維企業くらいで、給料が高く隆盛を極める勢いでした。合成繊維は、人口の増加で天然繊維では衣類需要に対応しきれない危機を救いました。しかし、集団就職で採用した中卒者を企業内の高校で育成するなど、日本を代表する会社と言われた鐘紡は破綻し、今や繊維産業は開発途上国に移ってしまったと言っても過言ではありません。

鉄や繊維のみならず如何なる製品、如何なるサービスも時代とともに成長して成熟し、自分で新たな価値を見出す変化ができなければ衰退していく宿命にあります。

鉄は、強度が高く延伸性に優れ、如何なる形状にも加工できる特徴がある一方、重い、錆びるなど負の性質を持ちます。負を補うために合金、非鉄金属、塗料が生まれ、そして最近は超高純度の鉄が錆びない鉄として注目を集めています。

繊維には、より高い保温性・吸湿力・防水と発散性・抗菌など機能性が求められる時代になり、開発力は日本が中心です。アクリル繊維から作られた炭素繊維の複合材料が、自動車の鉄の代替として使われ出したことは、材料の変化を示す特徴的な例です。

このような例でお分かりの通り、Druckerが言う“顧客を消費者においた価値”で判断すると、素材が鉄である必要は無く、強く軽く柔軟で錆びない性能があれば良いことになります。また、衣類の素材がポリエステルである必要は無く、薄く暖かく汗を発散し臭いが残らない性質を持ったものであれば何でもよいのです。

「もの」を見て判断するのではなく、「こと」、価値で判断する習慣を付けてください。製品には寿命がありますが、価値は永遠に追及されるテーマです。

社会では、修士、博士、MBAという学歴に報酬を払うわけではありません。また、専攻したテーマが有用であるかどうかは社会が決めることです。

社会が価値として求める人材は、専門分野において努力して課題を解決してきた意欲と能力、先生、他の学生、更には企業・研究機関など広範な周囲の協力を得て課題に取り組んだ姿勢と実行力です。

皆様が、新渡戸スクールで多様な仲間と触れ合い議論し、論理的に課題を解決してきたやり方を、是非ともこれからの研究活動や仕事で実践し、敢えて言えば、そして最も重要である人間力を磨いてリーダーシップ力を身に付け、リーダーとして社会の求める要請に貢献していかれることを願い、ご挨拶とさせていただきます。