THINK GLOBALLY, ACT LOCALLY
プロフィール
帰山 雅秀(かえりやま まさひで)さん
北海道大学 名誉教授
北海道大学 北極域研究センター 研究員
北海道大学 客員教授
1973年 北海道大学 水産学部水産増殖学科卒業
1985年 水産学博士(北海道大学)
1949年生まれ、北海道小樽市出身
1973年4月 水産庁採用
1997年10月 水産庁さけ・ます資源管理センター調査課生物資源研究室長
1998年4月 北海道東海大学 工学部海洋開発工学科教授
2000年8月 アラスカ大学 フェアバンクス校水産海洋学部客員教授
2003年4月 北海道東海大学 大学院 理工学研究科研究科委員長
2005年4月 北海道大学 大学院 水産科学研究院教授
2013年4月 北海道大学 名誉教授
2013年4月 北海道大学 国産本部特任教授
2018年3月 北海道大学 国際連携機構退職
2018年4月 北海道大学 北極域研究センター研究員 現在に至る
第二の札幌農学校を目指して開校をサポート
私は2013年4月に開校した「新渡戸カレッジ」の立ち上げから関わり、2018年からフェローになりました。皆さんもご存知の通り、北海道大学は前身である札幌農学校時代から初代教頭であるウィリアム・S・クラーク博士とその弟子たち――佐藤昌介、大島正健、伊藤一隆、新渡戸稲造、内村鑑三、廣井勇らにより、現在も全学に受け継がれている「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」、「実学の重視」を教育研究の基本理念とし、世界に通じる人材育成をめざしております。
私自身、クラーク博士が唱えた”lofty ambition”(高邁なる大志)にあこがれ、その教えを自身の鑑としてまいりました。「新渡戸カレッジ」の話を初めて聞いたときも、本プログラムが“第二の札幌農学校”のような役割を果たすことができるならと思い、喜んで開校の準備に加わりました。
北海道大学のフィロソフィーの基本は、トップダウンではなくボトムアップの精神です。学生一人一人が自ら考え、行動して自身の人生を切り開いていける人材を輩出したい。「新渡戸カレッジ」開校以来、入学された皆さんはその期待に見事に応えてくれる意欲的な人ばかりで、我々フェローも毎年皆さんの成長を頼もしく見守っています。
地球の未来を見据えた“THINK GLOBALLY, ACT LOCALLY”
“Think globally, act locally”――学生には「物事を考えるときはつねに世界を視野に入れて考え、自分の足元をしっかりと見据えて歩き出しなさい。それが結果的にはグローバルな行動につながるのだ」と伝えています。このGlobeに込めた意味は、単に海外ということだけではなく、より根源的な“地球”を意味しています。2020年は、新型コロナウイルスの影響によりこれまでとはまったく異なるライフスタイルが求められました。私は生態学をベースとする研究者ですが、今回のコロナ・パンデミックは人類の急激な発展の歴史、自然や野性動物たちの領域を侵していく人間活動そのものに対する警鐘であると考えています。
私の最初の授業「グローバル基礎科目」、秋からはじまるフェローゼミでも、2020年のメインテーマは「地球温暖化をどう食い止めるか」です。私たちは自分の止まり木である地球を自ら切ることのないよう、次世代を担うカレッジ生の皆さんに地球生態系の未来について考えてもらっています。オンライン授業も取り混ぜた新しい学びのスタイルにカレッジ生も私たちも試行錯誤を重ねた、忘れられない一年になったと思います。
人類は中央アフリカで生まれ、ベーリンジアを通って新大陸へ移動し、約1万年前に南アメリカ先端に到達して以来、狩猟生活から農耕の定住生活に移行しました。約30万年間の人類史のうちおよそ90%の歳月を、私たちは旅をして生きてきました。私自身、研究生活を含め30カ国以上の国を訪れたことにより、多様な人生観、視野の広がり、自律的な思考を身につけてきたと思っております。新渡戸カレッジの皆さんにはいつも「旅に出よ!」と呼びかけています。本学の海外留学の目的でもある「高い倫理観と豊かな人間性をもった自律的な個人の確立と、論理的な思考力と高い専門能力を身につける」ために、“Think globally, act locally”に生きていってほしいと思います。
フェローの流儀:人として互いの価値観を認め合う
私の海外経験から導き出した実感としては、異文化を真に理解するのはなかなか難しいのですが、異文化を認める――相手の価値観を認め、自分もへりくだることなく互いの価値観を認めあう――ことが大事ではないかと感じています。ささいな違いに目くじらを立てることなく、互いの価値観や領域を尊重すれば自然に人間同士のつきあいが深まります。海外で悲しみのどん底にいたある時、友人の無言のハグがどれだけ自分を慰めてくれたかを思い出します。どんな雄弁な言葉よりも心を癒していただいたと思っております。ところで、相手はもちろん男性です。彼とは今もつきあっていますが、海外で得た友人と友情は一生ものです。
最後になりますが、真のリーダー像とは、周囲の人間が思わずその人を仰ぎみるような徳や実力を持ち、自身は「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という格言のように慎ましく謙虚さを忘れない人物だと思います。「おれが、おれが」というのは「リーダー」というより「ボス」タイプですね。新渡戸カレッジでは、札幌農学校時代から変わらずに、これからも数多くの真のリーダーが育っていくことを祈っております。