Messages
Messages from Nitobe College Students, Alumni, Fellows, and Mentors.

マイノリティーの視点を持ち摩擦をおそれずに

石川 めぐみ
Post Date: Jan 27, 2023

プロフィール

石川 めぐみ(いしかわ めぐみ)さん

CJコミュニケーション 代表
1990年 北海道大学文学部卒業

帯広生まれ、親の転勤で道内を転々とする。北海道大学文学部文学科 中国文学専攻課程卒業後、NHKに就職し函館局に配属。1993年東京番組制作局、1998年札幌局に異動し各種番組の制作に関わる。2001年NHKを退職し、北京第二外国語学院留学預科日本語学院で日本語教師として勤務。その後現地で起業し、日本企業の中国進出をサポートするコンサルタント業務を始める。2010年北海道に戻り、中国語圏の個人旅行者向け旅行業を経て、現在は映像コンテンツ字幕やオンラインゲームの翻訳を手がける。中国語通訳案内士。北海道スキー連盟認定スキー指導員。

NHK番組制作を経て経済成長期の中国で起業

私が中国に関心を持ったのは、高校生の時に見た2つのニュースがきっかけです。1つは中国からある文化団体が来日し、そこの子どもたちが披露してくれた歌の発音がとても綺麗だったことと、もう1つは中国残留孤児の方々の肉親探しが始まったことでした。それまで意識もしていなかった中国という国に一気に興味が湧いてきて、北大文学部の中国文学専攻に進学しました。

NHK時代は奥尻島に旅番組のロケに行き、北海道南西沖地震に遭遇しました。今みたいに便利なポータブルな機材がない時代ですから、札幌から機材を乗せたヘリが到着したのが午前5時くらい。そこから海を隔てた大成町(現・せたな町大成区)へ電波を飛ばし、全国に向けて地震の第一報を報道したことを思い出します。
その後NHKを辞め、北京に行った当時の中国は経済成長期の真っ只中。街中に「今日よりも明日はきっと良くなる!」という狂騒的な熱気が渦巻いていて、とても面白かった。日本語教師の契約が終わってももう少しここにいたい、でもこの先どこが自分を雇ってくれるんだろう…と悩んでいたら、現地の友人がこともなげに「じゃあ、自分で起業したら?」と言ったんです。
きっと日本にずっといたままだったら、自分で会社を起こすなんていう選択肢はなかったはず。トライ&エラーを繰り返してタフに生き抜いていく中国にいたからこそできた経験だったと思います。

自分の常識を押し付けず、「話せばわかる」経験を

私が中国にいたときは自分がマイノリティでしたし、日本にいる外国人の方々はマイノリティの存在です。そう考えるとグローバル社会の今、さまざまな異文化を背景にした人々とコミュニケーションを築いていくには、マイノリティの視点を持つ、すなわち「自分の価値観を押しつけない」ことが大前提。
世界には多様な価値観が存在するという事実を受け入れて、その接点で発生する摩擦を柔軟に解決していく力が、これからのリーダーには求められると思います。

「摩擦はできるだけ起こしたくない」と心配する気持ちはわかりますが、実際のところ、異文化コミュニケーションにおいて摩擦が100%ゼロ、ということは残念ながらありえません。以前、中華圏からのお客様の旅行ガイドを務めたときも、小さいお子さんたちが地下鉄で元気いっぱいにはしゃいでいたので、「申し訳ありませんが、日本では公共の乗り物では静かにするのがマナーです。特に人にぶつかるというのは、とても失礼にあたるんです」とご両親にお伝えしたところ、驚いてお子さんたちに説明してくれて、そこから先の移動がよりスムーズになったということもありました。
頭ごなしに「日本の常識が通じないなんて!」と憤るのではなく、こちらも「話せばわかる」経験を積んで学んでいく。そうやってお互いに摩擦係数を小さくしていけたらいいですよね。

似たような観点でもう一つお話しすると、次代のリーダーは自分と異なる意見に聞く耳を持つ姿勢も必要だと思います。自分と同じような意見の人やいわゆる“イエスマン”だけを集めては、アイデアが自分の枠以上に広がっていきません。異なる意見を敬遠しない懐の深さも肝要です。

フェローの流儀: 無駄な経験は何一つない

新渡戸カレッジ生は皆さん、とても優秀で、ゼミのたびにその勤勉さや成長ぶりに感心しています。私の学生時代は応援吹奏団でホルンを吹き、七大戦が終わったら皆で思いっきり盛り上がるという弾けた思い出ばかり(笑)。北大に入学したこと自体が、刺激的な異文化コミュニケーションの始まりだったと実感しています。

ここまでの道のりを振り返ると、NHKで番組作りをしたことも中国で起業したことも、今はゲームや映像コンテンツの翻訳をしていることも「人生で無駄になる経験は何一つない」というのが私の持論です。
たとえ辛い経験であっても「あれだけの思いをしたのだから、打たれ強くなった」と前に進む勇気になる。進路の選択もリスクばかりを考えると足踏みしがちですが、時には「えいっ」という大胆さも必要です。新渡戸の優秀な皆さんに大胆さが加われば、無敵そのもの。思い切って世界に踏みだし、活躍してくださることを期待しています。