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Messages from Nitobe College Students, Alumni, Fellows, and Mentors.

多様化する国際社会で二者択一に陥らず広い発想で未来を拓く

松尾 望
Post Date: Jan 27, 2022

プロフィール

松尾 望(まつお のぞむ)さん

一般財団法人 知的財産研究教育財団
知的財産研究所 上席研究員
1984年 北海道大学 大学院 工学研究科電気工学専攻修士課程修了

1959年札幌市生まれ。1984年北海道大学 大学院 工学研究科電気工学専攻修士課程修了。古河電気工業株式会社入社。光通信用半導体デバイスおよび情報通信システムの研究開発に従事。1996〜1998年カナダの子会社で先端システム開発部長。帰国後、企画部門を経験し、2006年に研究開発本部半導体デバイス開発部長として通信用光デバイスの開発に従事。2011年から知的財産部長として、知財戦略や海外グループ各社の知財活動促進等に注力。現在は一般財団法人知的財産研究教育財団に出向し、知的財産研究所上席研究員。

海外駐在や技術開発で経験した激しい世界の動き

電気関係の職に就いていた父の影響もあり、北大工学部で電気工学を学びました。大学院は化合物半導体が専門で、就職先の古河電気工業では現在のインターネット時代における光情報伝送の重要な役割を担う半導体デバイスの開発や情報通信機器の開発に従事しました。

一連の開発業務の中では、カナダの子会社に出向し、光通信に関わる機器や部品の開発に関わる機会を得ましたが、そこからITバブルの隆盛とその崩壊を目の当たりにしました。子会社はみるみる急成長し、気が付くと子会社の工場は街中あちこちに広がり、世界のIT企業の間ではM&Aが繰り返されていましたが、直後のバブル崩壊で、リストラの波が訪れました。

帰国後も海外の通信機器メーカー等との製品開発に従事しましたが、順調に進んでいた製品開発が、アジア企業の低価格攻勢によって中断せざるを得ない状況となったこともありました。今思うとその辺りから新たなプレイヤーが参入するフェーズが始まっていました。

最先端の技術開発においては、広く世界の技術を求める必要があり、米国のベンチャー企業や欧州のベンチャー企業の技術を探し当て、設備を導入し、また、中国や台湾の技術を導入する等、その後知的財産部長になってからも海外との仕事は続きました。

カナダでは積極的な移民政策をとっており、子会社にも様々な国の人達が働いていました。電子メールが広まりだした頃で、いつも話をしていたヨーロッパ系のスタッフからもらったメールの英文が文法も綴りも多様性満載で、何回読んでもわからない。それでもスタッフ全体が会話して仕事が進んでいました。単一言語の日本がいかに特別であるかを再認識しました。ちなみに私は子会社の社長に「君のwritten Englishは素晴らしい」と褒められましたが、「spoken English」は褒められませんでした。

また、帰国後の仕事で中東の企業の開発マネージャーの携帯電話にかけた時は、先方が“ I am in a tank now.”と言うので、咄嗟にどうして石油タンクの中にいるのかと思ったら、tankは戦車。彼は明るい声で兵役の最中でした。

世界は広くて、日本の日常では考えられないようなことの連続です。それらに柔軟に対応しつつ、流されてもいけない。難しいことですが、どこに行っても流されない強い気持ちは重要だと感じました。

脱・固定概念、柔軟で前向きな思考がますます重要

新渡戸カレッジでは学部1、2年生を対象にしたフェローゼミを受け持っています。2021年度のテーマでは「競争と協業」を扱いました。はじめは発言に慎重で静かだった学生の皆さんが、成果報告会に向けたグループ発表においては見違えるほど堂々と発表する姿を頼もしく見つめていました。

ますます多様化が進む今、既存のフォーマットに当てはめたら認められる、褒められるというフェーズは過去のものにしなければならないと思います。これからは柔軟で強い、「こう進めよう」という前向きで新たな思考が求められます。「周囲に認められること」は重要かも知れませんが、少なくとも「褒められる」では、誰かを基準にしたままで、今までの価値観を越えられないと思います。

カナダで出会った言葉に“false dichotomy”があります。dichotomyは「二分法」。日本では「誤った二者択一」という訳で知られています。意味は「AかBか」「あの人はいい人か、悪い人か」といったような二者択一以外の選択肢に気づかない、必ずどちらかに決めなければいけない、と思い込む思考の落とし穴を指しています。今回のフェローゼミで扱った「競争と協業」は正にこの世界です。相反するように思われる「競争」と「協業」ですが、多くの企業は、このどちらも大切にして、うまく「協業」を活用しながら「競争」社会を生き抜こうとしています。

気が付くと、自分自身が“false dichotomy”に陥っていることがよくあります。そのような時には日本人が得意とする折衷案もときには有効かも知れません。中間解も含めた様々な発想を念頭に置いて最適な方向を考える力が個人や企業の間でもますます必要とされるのではないかと感じています。

そしてもう一つ大事にしたいことが「PDCA」。世界的な規模で取り組まれているSDGsも、人類全体の「PDCA」だと思います。計画し、やってみて、評価の末、「違うな」と思ったら、そこから先は柔軟に修正する。「一度決めたのだから」という固定概念にとらわれず、前向きに修正能力を高めていく。それをより深く理解すると、もっとコミュニケーションが自由に楽しくなるかも知れません。

フェローの流儀:出会ったことに誠実に対峙する

こんなお話をしながら、「フェローの流儀は」と聞かれて、言葉に詰まってしまいました。
固定観念にとらわれず、ますます固まっていく頭と戦わなければならないと思います。
現在は国内外の知財戦略の調査研究を行うチャレンジングなお仕事を頂いています。
開拓精神を忘れずに、出会ったことに誠実に対峙していきたいと思っています。