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Messages from Nitobe College Students, Alumni, Fellows, and Mentors.

自分という人間の価値を認めてもらう

大友 俊彦
Post Date: Jan 17, 2020

プロフィール

大友 俊彦(おおとも としひこ)さん

中外製薬株式会社 トランスレーショナルリサーチ本部 早期臨床開発部長
獣医師 獣医学博士
1992年 北海道大学獣医学部卒業

山形県南陽市生まれ。1992年北海道大学獣医学部卒業後、中外製薬株式会社に入社。研究員としてバイオ・抗体医薬品創出ならびにターゲット分子探索に従事。2005年からはグローバルプロジェクトリーダーとして、新規医薬品のグローバル開発をリードし、海外臨床試験の実施、海外企業との共同開発を主導。2019年10月から現職。

創薬の臨床プロジェクトで年間3カ月は海外出張

私が獣医師を目指して北海道大学獣医学部に移行した頃は、ちょうどコミックの『動物のお医者さん』が流行り始めた時期でした。主人公と同世代だったこともあり、親しみを感じたことを覚えています。学業以外ではバレーボールやテニス、サッカーに打ち込み、友人とボールを追いかけて走り回ったこともいい思い出です。

結果的に獣医師の免許は取りましたが、大学病院の研修を受けているうちに「治療の根幹である創薬に取り組んだほうが世の中の役に立つかもしれない」と思い立ち、学部卒業後は今の会社に勤めることになりました。

新規医薬品候補のプロジェクトリーダーとして海外で開発をリードしていた時には、年間3カ月は主にアメリカ出張でした。基本は一カ所に1〜2泊で、長いときは3週間くらい滞在し、また次の場所に移動の日々。学生の頃は留学や海外勤務という選択肢すら思いつかなかったので、こうして一人でアメリカを飛び回っている自分を振り返ると、「人生はどうなるかわからないものだ」とつくづく実感しています。

肩書きをはずした“人対人”のステージで

海外経験で学んだことは、まず「発言すること」の大切さです。日本人は会議でも発言する人が限られていたり、発言のチャンスさえもめぐってこないことが多々ありますが、海外の会議でこちらが終始黙ったままでは仕事相手として認識されないのと同じこと。無論そこで流暢な英語を話せるのにこしたことはないんでしょうが、実はそれよりも話す内容が明確かつロジカルか、「こいつは面白いことを言うな」と相手に耳を傾けてもらえる話題なのか。中味ありきの発言のほうが、流暢であたりさわりのない英会話よりも何倍も効果的であるということがわかりました。

また、誰にどういうアプローチをして目的を実現するかという戦略は非常に重要であり、自分でもこの部分にはかなり時間をかけて考えてきたと思います。それがうまくいくと私がいない場面でも「オオトモの提案を受け入れたほうがいいんじゃないか」とサポートしてもらえるなど、うれしい効果につながります。
キャリアアップのための転職が当たり前の彼らにとって、会社の肩書きは二の次、三の次。それより重要視しているのは“誰”と仕事をしているか。私の場合でしたら「スイスのロシュグループの一社である中外製薬のオオトモ」ではなく「オオトモ」と認識してもらう、つまりは“自分の価値を認めてもらう”ことがビジネスを進めるうえで必要不可欠であると感じています。
もしかすると相手も転職をして、また違う場面で再会し、そこから新しいつながりができるかもしれない。“人対人”という基本をつねに忘れないようにしています。

主張のはっきりした海外では幾度も「自分はどういう人間で、日本はどういう国なんだろう」と自問する場面にぶつかります。その答えが見えていないと、自分がやりたいことやどういうところで力を発揮できるかもアピールできません。月並みなアドバイスかもしれませんが、自分や日本について答えられる準備をしておくことをおすすめします。

フェローの流儀: 時間の使い方により自覚的に

新渡戸カレッジ生の印象は、非常に優秀でまじめな人が多いと思います。若いうちから海外に目を向けている皆さんの関心の高さをまぶしく見守っています。
ただひとつだけ申し上げるとしたら、もう少し“前のめり”でもいいのかなと感じることがあります。新渡戸カレッジのプログラムを「受けた以上はやらなきゃいけないからやる」ということではなく、自分で面白いと思うことがあれば積極的に自分の中に取り込んでいく。

フェローとの対話プログラムも、人生の大先輩、しかもビジネスで大きな成果をあげてこられた方々を1時間独り占めできる時間だと思えば、自分からどんどん聞きたいことを聞けばいい。その時間の使い方は自分次第。これは私もつねに意識していることですが、自分の時間と相手の時間をどう使うかをより自覚的に考える。それも大事な戦略のひとつです。北大生という肩書きがはずれたときに自分を守ってくれる経験を、学生のうちにたくさん積んでほしいと思います。